Issue 1 - Writings
小林孝行 (flotsam books)
むっちゃ気を遣っちゃわないですか、誰かと何かをしようとすると。
これを言うとこの人はどう思うだろう?とか。あいつとこいつは方向性が違うから、こいつにはこれをお願いして、あいつにはあれを任せて、とか。忖度忖度。忖度と気遣いの毎日。それでいて出来上がるのは全ての関係者の妥協の結晶みたいなもんだ。関わる人数が多くなればなるほど、角は取れて良いところも悪いところも無くなってクソつまらないものが出来上がる。だから一人でやりたいんだ、俺は。...
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Issue 1 - Writings
カナイフユキ
大学進学のために上京する少し前、映画『ロスト・イン・トランスレーション』を観た。大学を出たものの定職に就かず、夢や目標もなく、なんとなく夫の日本出張について来た若いアメリカ人女性の主人公に、僕は自分を重ねた。夫が仕事に出かけた後のホテルの部屋に「置き去りにされた」あの感じ。身に覚えのある感覚だった。上京後にも渋谷のスクランブル交差点を歩きながら彼女のことを考えた。
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Issue 1 – Writings
平岩壮悟
ひとりが好きだ。大勢も嫌いではないけど、ご飯を食べるのも、映画を観るのも旅行をするのも、ひとりのほうが気楽で落ち着く。だから、ソーシャルメディアとかはけっこうだるい。とはいえ、まったくやらないわけでもない。仕事と社交のために、それなりの頻度でやっている。この「ソーシャル」というのがクセ者だ。そもそもホモ・サピエンスが言語というメディアを発明したのは、社会的なつながりをつくるためだったと言われている。ネアンデルタール人も言語を使えたようだけど、ホモ・サピエンスの共同体のほうがネアンデルタール人の共同体よりも規模が大きく
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Issue 1 – Writings
石原海
もしかしたらここから遠い世界に住む、会ったことのない誰かの悲しみが自分の身体に乗り移っているのかもしれない。暗くて長すぎる真夜中、ぼんやりと汚れた顔でガラガラのバスに座って、誰も自分のことを待っていない、遠い南にある家に向かう。ほとんど死人のような自分の顔の反射をガラス越しに見てぎょっとする。こんな顔をしていたんだっけ。音楽でも聴けば少しはマシな気持ちになるのを知っているのに、イヤフォンを鞄から探す気力もない。さっきまで楽しく友人たちと酒を飲んでおおはしゃぎして笑っていたのに...
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Issue 1 – Writings
カトヤマツヨシ
だいたいわかるようになってきた。風邪を引く兆候が出るのは1日前。汚い電子音のアラームで起きると喉は不機嫌で、唾を飲み込むと染みるように痛い。洗面台の鏡の前で携帯のライトをつけ、喉の奥の行き止まりを照らす。ヒトの内側の赤色がマグマのように濃い。喉はいがいがと反抗的なのに、あたまのなかにただよう雲は分厚くソフトフォーカスで曖昧模糊。引き出し奥のオムロンの体温計を脇に挿すと、先っぽの金属がひやっとするのは一瞬で、ピピッと鳴って数字を見て直ちに理解する。微熱だ...
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